当直明けそのまま外来の調剤をこなして、委員会の資料を仕上げて、帰宅してから給与明細を確認したら手取り22万円。翌日、同期から「薬局に転職して年収が一気に上がったらしい」という話が回ってきた。あのとき感じた「同じ薬剤師なのに何が違うんだろう」という感覚、心当たりがある人も多いのではないでしょうか。
ただ、「低い」と感じたまま整理せずに動くと、転職後に「年収は上がったが土日がなくなった」「やりがいがなくなった」という後悔になりやすいという傾向があります。一方で、何もしないまま30代になると転職市場での選択肢が狭まることもある。どちらに動くにせよ、「何がどのくらい低いのか・なぜ低いのか・どう判断するか」の3つを先に整理することが重要です。
3つのポイントを順番に確認していくことで、今すべき判断が見えてきます。整理していきましょう。
ポイント①|年収を数字で正確に把握する
感覚ではなく数字で把握することが判断の出発点です。まず全体像を確認します。
20代前半・後半の平均年収(令和6年データ)
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の年齢階層別の平均年収は以下の水準が示されています。
- 20〜24歳:約400万円
- 25〜29歳:約500〜505万円
(出典:賃金構造基本統計調査 厚生労働省 令和6年)
この数値は薬剤師全体(調剤薬局・ドラッグストア・病院など)の平均であり、雇用形態・地域・職場規模によって分布が大きくあります。20代の手取りに換算すると、月額でおおむね22〜27万円程度が目安になるとされています(各種控除・夜勤手当等の有無により変動)。
「手取り22万円」というのは20代前半の平均値に近い水準です。低いと感じる場合は、次の比較で「何と比べて低いのか」を確認することが重要です。
関連記事:病院薬剤師の給料が低いのはなぜ?構造的な理由と3つの対処法
調剤薬局・ドラッグストアと比べるとどうか
転職市場の求人情報をもとにした傾向として、20代の職場別の年収差は以下のように言われています。
- 調剤薬局(20代):病院薬剤師と比べて年収+40〜60万円程度の傾向があるとされています
- ドラッグストア(20代):病院薬剤師と比べて年収+100〜170万円程度の傾向があるとされています
ドラッグストアの年収が高めになりやすい背景には、夜勤・当直がない代わりに土日出勤が前提・OTC対応あり・店舗異動が多いという働き方の違いがあります。年収の数字だけを比べると「差がある」ように見えますが、働き方の違いをセットで理解しないと、転職後にギャップが生じやすいとされています。
国公立病院と民間病院の給料の違い
国公立病院(公立・国立大学病院・独立行政法人)は、公務員に準じた給与体系をとるケースが多く、定期昇給が規定として安定している傾向があります。ただし基本給の出発点は民間病院より低めに設定されることもあります。
民間病院は病院の経営状況や方針によって給与水準のばらつきが大きく、夜勤・当直手当でトータル年収を上げる構造になっているケースもあります。転職前には「基本給」「手当の種類と実額」「賞与の支給実績」を個別に確認することが重要です。
ポイント②|「低い」と感じる原因を3種類に分ける
低いと感じる理由は人によって違います。どれが自分のメインの不満かで次のアクションが変わります。
「絶対額として低い」「手取りが少ない」「将来が見えない」は、それぞれ別の問題です。原因をひとまとめに「低い」と感じていると、対策を考えるときにズレが生じやすくなります。
他職場・他職種と比べると絶対額として低い
ポイント①で確認したように、調剤薬局・ドラッグストアとの年収差は20代で40〜170万円程度あるとされています。「絶対額が低い」という不満であれば、転職によって数字を変えるアプローチが選択肢になります。
ただし、この比較をする場合は「同年代・同経験年数・同規模」の条件を揃えることが重要です。大学病院と調剤薬局チェーンで単純比較しても、業務内容・夜勤の有無・昇給カーブがまったく異なるため、実態の把握にはなりにくいとされています。
奨学金返済後の「実質的な手取り」が想定より少ない
6年制薬学部を卒業した薬剤師の多くが奨学金を抱えており、月3〜4万円程度の返済が続くケースがあります。手取り21万円から3.5万円を返済に充てると、実質17.5万円。家賃・光熱費・食費を引くと、毎月ほとんど残らないという感覚になるのは数字として自然な状態です。
この問題への対処として、一部の調剤薬局やドラッグストアでは奨学金返済支援制度を設けているところがあります。転職先を選ぶ際に「奨学金返済支援の有無」を条件に加えることで、実質的な手取りを増やせる可能性があります。
昇給が遅く、3〜5年後の見通しが立たない
病院薬剤師の昇給は年功序列型が多く、5年目でも年収の上がり方が緩やかなケースがあります。薬剤師10〜20人規模の病院では、主任・副薬局長のポストが数名しかないことも珍しくなく、いくら経験を積んでも昇進の機会がないという状況が続くことがあります。
「現状の年収が低い」という問題だけでなく、「5年後も大きく変わらない可能性が高い」という見通しの問題が重なっているとき、転職の検討を始めることに合理性があるとされています。
関連記事:病院薬剤師の昇給が遅い理由と対処法
ポイント③|病院に残るか転職するかを判断する
年収の現状と低さの原因を整理したら、次は「どう判断するか」です。20代のうちに確認すべき判断基準を整理します。
「逆転する」を待って後悔したパターン
「病院薬剤師は長く続けるほど年収が逆転する」という話を聞いて、待ち続けた結果として後悔したというケースがあります。
「病院薬剤師は年功で給料が上がる」「長く続けると薬局より高くなる」という話は、昇進ポストの空き・病院の規模・経営状況に大きく依存します。主任や薬局長のポストが埋まったまま10年が過ぎ、「気づいたら転職の選択肢が絞られていた」という状況は決して珍しくないとされています。「逆転するはず」という期待は、現在の自院の昇進状況と照らし合わせて判断することが重要です。
20代前半(1〜3年目)の判断基準
1〜3年目は、病棟業務・TDM・疑義照会・処方提案の基礎を積む時期です。この経験は後々の転職市場でも評価されますが、経験年数が浅いうちは「年収だけを理由に転職する」判断が後悔につながりやすいとされています。
この時期に確認しておくべきことは、以下の3点です。
- 自院での昇給の実績(3年目・5年目の先輩の年収水準)
- 奨学金返済支援など、転職先で得られる実質的な手取り改善の可能性
- 今の病院で積める経験が転職市場でどのくらい評価されるか
転職活動そのものは在職中に動けます。「相場を確認する」という目的で転職エージェントに相談だけしてみることは、転職の意思決定とは別のステップです。
20代後半(4〜7年目)の判断基準
4〜7年目は、病院での業務経験がある程度積まれた状態で転職市場に出られる時期です。病棟業務・TDM・処方提案の実績を言語化した状態で出ると、調剤薬局・企業・別病院のいずれでも採用側から評価されやすいとされています。
また、採用側の視点として「20代での転職は教育可能・定着率・柔軟性を評価しやすい」という傾向があり、30代以降と比べると選択肢が広い時期といえます。「年収の逆転を待つより先に市場を確認する」という動き方が合理的になりやすい時期です。
転職するなら何を持って出るか
年収への不満から動き始めるとき、「何を目的に転職するか」が定まっていないと、転職後に後悔が生まれやすくなります。20代の病院薬剤師が転職で失敗しやすいパターンと、経験の活かし方を整理します。
転職で後悔しやすいパターン2つ
年収の高さだけを見て転職先を選んだ場合に起きやすい後悔として、以下の2つのパターンがあります。
年収+100万円以上という数字に惹かれてドラッグストアに転職したものの、土日休みがほぼなく、店舗異動も年に1〜2回あり、ライフスタイルが大きく変わったというケースがあります。「夜勤がないのは良かったが、週末に予定が立てられない」という状況は、転職前には実感しにくい変化です。
年収と労働時間のバランスは改善されたが、病棟業務・TDM・処方提案といった病院ならではの業務がなくなり、「処方箋をこなすだけになった」と感じるケースがあります。調剤薬局への転職を後悔するケースの多くは、年収よりも「業務内容の変化」に対するギャップから生まれているとされています。
「年収を上げたい」という目的は正当ですが、「そのために何を犠牲にできるか・できないか」を先に整理することが後悔を減らすポイントです。
病院薬剤師の経験を転職市場で評価してもらうための整理
病院薬剤師の経験は、転職市場で正しく評価してもらうために「言語化する作業」が必要です。「病棟業務をやっていました」だけでは伝わらない部分が多く、以下のような内容を整理しておくことで、採用側に伝わりやすくなるとされています。
- 担当病棟の診療科(内科・外科・ICUなど)と業務の範囲
- TDMの実施実績(対象薬剤・件数の目安)
- 疑義照会・処方提案の件数と内容の傾向
- チーム医療(NST・ICTなど)への参加経験
- DI業務・勉強会の担当経験
20代での転職は「採用後の成長」を見込んだ採用になりやすく、過去の実績より「何を経験してきたか・どう使えるか」の説明が重視される傾向があります。経験を整理した状態で市場に出ることで、年収交渉においても伝え方が変わります。
関連記事:30代病院薬剤師の年収アップ方法と転職で押さえるべき条件
今の年収が相場と比べてどのくらい差があるか確認する
転職を決める前に、「今の年収が市場の相場とどのくらい違うか」を求人で確認することが最初のステップです。以下のサービスは病院薬剤師の求人を多く持っており、年収条件の比較や相場の把握に使われることが多いとされています。
- 薬キャリAGENT:病院薬剤師向けの求人が多く、年収条件の比較がしやすいとされています(※薬キャリAGENT公式サイト参照)
薬キャリAGENT(公式サイト) - マイナビ薬剤師:全国対応・大手運営で求人数が豊富。年収アップ希望の相談にも対応しているとされています(※マイナビ薬剤師公式サイト参照)
マイナビ薬剤師(公式サイト)
複数のサービスを比較したい方は→ 病院薬剤師向け転職サイト比較・おすすめ7選
まとめ
20代病院薬剤師の年収について、3つのポイントで整理しました。
- ポイント①:20〜24歳は約400万円、25〜29歳は約500〜505万円が現在の相場水準(令和6年・厚労省データ)。調剤薬局比で+40〜60万円、ドラッグストア比で+100〜170万円の差があるとされているが、働き方の違いをセットで理解することが重要
- ポイント②:低いと感じる原因は「絶対額が低い」「奨学金返済で手取りが少ない」「昇給が遅く見通しが立たない」の3種類に分かれる。原因を混同すると対策がずれる
- ポイント③:「逆転する」を待って後悔したパターンがある。20代後半は選択肢が広い時期であり、在職中に市場の相場を確認するだけでも判断材料になる
転職が正解かどうかは、本記事だけでは判断できません。ただ「自分の年収が相場のどこにあるか」を確認することは、転職を決める前にできることです。
転職するかどうかはその後に判断しても遅くありません。
この記事の情報について
本記事の情報は2026年5月時点のものです。転職サービスの求人数・サービス内容は変更される場合があります。最新情報は各公式サイトをご確認ください。